厚生労働省の労働政策審議会は、「労働者災害補償保険法等の一部を改正する法律案要綱」について審議を行い、おおむね妥当であるとの答申を取りまとめました。これを受けて厚生労働省は、当該要綱を公表し、今国会に改正法案を提出する予定としています。今回の改正は、遺族補償年金における男女差の解消をはじめ、労災保険制度の運用実態に合わせた見直しを行うことを目的としており、一部を除き令和9年4月1日の施行が予定されています。
今回の改正の大きな柱の一つが、遺族補償年金等に関する男女差の解消です。現行制度では、配偶者が遺族補償年金を受ける場合、妻については年齢要件が設けられていない一方で、夫については原則として60歳以上であること、または一定の障害の状態にあることが支給要件とされています。今回の改正では、この夫にのみ課されている年齢または障害に関する要件を削除し、男女間で異なっていた支給要件を統一することとされています。これにより、遺族補償年金の受給要件における男女差が解消されることになります。
また、遺族補償年金の給付額の算定方法についても見直しが行われます。現行制度では、遺族が1人であり、その遺族が55歳以上または一定の障害の状態にある妻である場合に、給付額を増額する特例が設けられています。しかし、この特例は妻のみを対象とした制度となっており、男女間で取扱いに差があるとの指摘がありました。今回の改正では、この特例を廃止し、遺族が1人である場合の給付額を一律に給付基礎日額の175日分とする仕組みに改めることとされています。これにより、給付額の算定においても男女差のない制度へと改められることになります。
さらに、労災保険給付の消滅時効に関する見直しも盛り込まれています。現在、療養補償給付や休業補償給付などの労災保険給付を受ける権利の消滅時効は原則として2年とされています。しかし、業務との因果関係の判断が難しい疾病については、発症から労災であると判断できるまでに時間を要するケースも少なくありません。今回の改正では、このような疾病の特性に配慮し、疾病の性質上、災害補償の対象となるかどうかを容易に判断できないものとして政令で定める疾病については、消滅時効の期間を2年から5年に延長することとされています。これにより、労働者が適切に労災保険給付を受けられる機会を確保することが期待されています。
このほか、いわゆる暫定任意適用事業の廃止も盛り込まれています。暫定任意適用事業とは、一定の事業について当分の間、労災保険の強制適用を行わず、事業主の任意加入とする特例的な措置ですが、制度創設から長期間が経過していることなどを踏まえ、この暫定措置を廃止することとされています。これにより、労災保険の適用関係についても見直しが図られることになります。
今回の改正は、男女間の制度差の解消や、疾病の特性を踏まえた給付制度の見直しなど、労災保険制度の公平性や実効性を高めることを目的としたものとなっています。今後、厚生労働省はこの答申を踏まえて法律案を作成し、国会へ提出する予定とされています。法案の審議状況や今後の制度改正の動向については、企業の労務管理にも影響する可能性があるため、引き続き注視していく必要があるでしょう。
詳しくは厚生労働省の公表資料「労働者災害補償保険法等の一部を改正する法律案要綱の諮問及び答申について」をご参照ください。